ワイン・ラヴァー憧れの、そして一度は味わってみたいと思う
世界一高価な赤ワイン、ロマネ・コンティ。この赤ワインは、
Pinot Noir / ピノ・ノワと言うブドウで造られます。
ピノ・ノワは果皮が深い紫色をし、黒ブドウに分類される品種
で、冷涼な地を好み、出来上がるワインは酸度が高めで、渋味
(タンニン)は比較的少なめ、上品なスタイルのワインを誕生
させます。
所がピノ・ノワとは、ラーメンで例えれば塩もあれば、味噌も
あり、醤油もあると言った様に、様々な系統(クローンと言い
ますが)があり、それぞれのクローンがより好む環境を持ち、
それぞれ個性が異なり、よって出来上がるワインにも大きな幅
(差異)があります。
777と言うクローンで、実の生産性が低く、よって一粒一粒に
エキスがより凝縮しますので、一般的なピノ・ノワの赤ワイン
よりも内容度の充実した肉厚な酒質になります。
ワインの世界は通常、分業制で、ブドウの苗木を育だて商う人、
ブドウを育てる人、ワインを造る人、ワインを売る人と言った
感じに分かれています。
ロマネ・コンティの畑に植樹されている777もブドウの苗木商
から購入するのですが、その同じクローン777を購入し、畑に
植え、その実から赤ワインを造っている生産者がいます。
同じクローンで造りますから、そのワインはロマネ・コンティ
と似ている?ロマネ・コンティを彷彿させる?同じくらい高価
なワイン?そんな疑問が湧くでしょう。
一卵性双生児を例にとってみましょう。同じ親から時を同じく
して生まれたにも関わらず、育つに従い、完璧に異なる人格を
有し、無二の人間となります。それぞれが置かれた環境、そこ
から受ける影響が異なるからでしょう。
ブドウでも同じ様な現象が生じます。同じ品種、同じクローン
を植樹し、育てたとしても、畑が違えば、例えそれが隣同士の
畑であったとしても、できたブドウの実の性格が多少の差こそ
あれ必ず異なります。
これをワインの世界では「テロワール」と言い、それは微気候
(わずかな違いの地勢、土壌、風の流れ等から起こる)による
影響と言い換える事ができます。
カリフォルニアで最も有名な赤ワインにオーパス・ワンがあり
ますが、しばしば目にするのは、オーパス・ワンの畑の隣の畑
のブドウで造ったオーパス・ワンを彷彿させるワインが...。と。
隣同士だから似ていると言いたいのでしょうが、それは無知の
極みです。テロワールの違いは決して同じを創りません。
話がなかなか核心の方へ進まなくてすみません。当店がかなり
前から販売しているイタリア中部トスカーナ州のPinot Nero/
ピノ・ネロ(イタリア語でピノ・ノワの事)の赤ワインがあり
ます。このピノ・ネロが777なのです。
この生産者は、ロマネ・コンティへ777を供給している苗木商
から同じクローン777を購入し、自分の畑に植樹し、栽培し、
ブドウを収穫し、赤ワインを造っています。
ロマネ・コンティと同じ777、しかもロマネ・コンティに苗木
を供給している苗木商から買い付け、その樹が付けたブドウで
赤ワインを造ったのだから、ロマネ・コンティの弟分、ロマネ
・コンティの様な赤ワインが200分の1の価格で買える、等と
言ったキャッチ・コピーで販売する人がいそうです。
しかし、何度でも言いますが、テロワールが異なれば、決して
同じものは誕生しません。全てのブドウには地味(テロワール
を反映した味)があり、その地味が形を変えたワインとなって
私達の前に現れるのです。
ロマネ・コンティほどの偉大な赤ワインを誕生させるクローン
777が付けたブドウ。そのブドウでワインを造るのなら確実に
素晴らしいワインが誕生する。そしてそのワインはトスカーナ
のテロワールを反映した、その地ならではの赤ワインとなって。
ワインを語る時、ブドウ品種だけではなく、それが育まれた所
(すなわちテロワール)、そこまで気にすれば(思いを馳せる
なら)ワインをもっともっと楽しめるのかもしれません。
*La Pineta 2019 Toscana Pinot Nero
ラ・ピネータ2019トスカーナ、ピノ・ネロ
飲み頃温度:15~18度。
<優美なミディアムボディー>
11,000円
香り:スミレを思わせる華やかさ(これは高級感に満ちたピノ・
ノワの赤ワインに必ず感じます。)、オーク樽由来のヴァニラ、
モカコーヒーを思わせるヒント、更にピノ・ノワの個性である
動物赤身肉や皮革を思わせる複雑さが共存し、ワインが空気に
触れるに従い、キノコのソテー、晩秋を思い起こすニュアンス
の複雑さが現れます。また、新樽からのスパイシーさとチョコ
を思わせるニュアンスにチョコミントを感じます。
味わい:豊かなヴォリューム、シルキーな口当り、グラマラス
さを感じます。フルーツ・フレーヴァーとオーク樽からの成分
がリンクし、品位があるハーモニーを広げます。甘味、酸味、
苦味、渋味と言った赤ワインの4要素が優美に口中を満たし、
何も突出しない、何も不足しない、形容すれば、「美」もっと
言えば「エロい」、ピノ・ノワの赤ワインとして最高レヴェル
に達しています。
余韻:果実味、タンニン(渋味旨味成分)、木樽からの成分の
優美なハーモニー。シルキーで、優雅なフィニッシュに美しい
エロさを感じます。
相性の良い料理や食べ物:ハッキリとした果実味のシルキーな
主張は、出汁巻き玉子焼きと好相性で、ピノ・ネロ由来の野趣
なヒントを考えると煮穴子入りがベストでしょう。
果実味、オーク樽からの成分が織り成す甘味旨味のオイリーな
広がりは、ブルーチーズのピリリとした味わいと、またチョコ
の芳醇な味わいとも密にリンクし、マリアージュします。