当店でワインを購入した事のある方ならほぼ全員がご存知の事と
思います。当店のワインの販売のスタイルは、ドクターが患者に
問診し、その人にとって、その時のベストな対処をするのに似て
いるのではないでしょうか。お客様のリクエストを先ずは聞き、
色々な角度から様々な質問をし、お客様のリクエストの意図する
本質を探ります。
なぜ、その様な事をするのか?それには明確な理由があります。
それはひとつのキーワードをみても、話し手と聞き手には共通の
理解と共に大きな相違、隔たりが存在します。その相違と隔たり
を埋めない限り、お客様のリクエストに正確に応えられないから
です。
例えば、お客様が「渋いワインを下さい。」とリクエストしたと
しましょう。そのリクエストは、渋い赤ワインだと決めつけても
OKでしょうか。それは短絡的で稚拙な思い込みです。白ワイン
にさえ渋いと感じられる酒質のものがあります。ロゼワインにも
勿論あります。ですから先ずはどの色のワインを指しているのか
を確認しなくてはいけません。
確認の結果、リクエストしているワインは赤でした。そして渋い
赤ワインがほしい訳です。渋い赤ワインとはどのくらい渋いので
しょうか。
赤ワインは含まれている渋さの程度で便宜上、大きく3つに分け
られます。渋味が少ないのがライトボディーで、渋味の多いのが
フルボディー。その中間がミディアムボディーです。
つまり、どんな赤ワインにも渋味があり、渋味が苦手な方ならば
ライトボディーでも「渋い」と表現する対象になる訳です。渋い
赤ワインとは必ずしもフルボディーであるとは限りません。
赤ワインをお勧めする際の最初の重要なポイントは、「渋い」が
どのレヴェルを指しているのかを探り出す事です。それに付随し
発生する問題は、赤ワインにどのくらいの果実味が備わっている
のかです。
渋味の少ない、多いを1(少)~10(多)で表すとします。6の
渋さを持つ赤ワイン(ミディアムボディー)があります。リッチ
な果実味がその赤ワインにあるとします。そうすると6の渋さが
果実味に包み隠され、実際は5や4に(渋みが少なく)感じられ
ます。逆に果実味が控えめな赤ワインならば、渋味が強調され、
7や8に感じられます。
「渋い」をどのレヴェルに設定するのか。それは含有されている
量だけでなく、そこに備わっている果実味の存在をも考慮した上
で実際に感じる渋さを計り、お客様のリクエストに応えるのです。
前置きが長くなりました。本題です。「甘くない赤ワイン」とは
どんな意味でしょうか。ブドウ果汁由来の残糖分がワインにあり
甘く感じるワインではダメと言っているのか。リッチな果実味が
ある為に、フルーツのコンポートの様な香りがあり、甘い雰囲気
があるワインは嫌と言っているのか。それが問題です。
世界で最も有名なデザートワインのひとつ、ポルトガルのポート
ワインやごく一部の赤ワイン以外の赤ワインはブドウ果汁に含有
されていた糖分のほぼ全てを発酵によりアルコールに転換します
ので、一般的に多くの場合、出来上がったワイン中には残糖分が
ほとんどありません。辛口なのです。
しかし、「甘くない赤ワイン」と言うリクエストをしばしば受け
ます。これの意味する所は、本当は甘口ではないのですが、甘い
ニュアンスがある為、脳が甘いと捉え、味覚でも甘いと判断して
しまう赤ワインの事です。グラスの内側が赤ワインの色で染まる
ほど濃厚な酒質の赤ワインです。
近年、ブドウの栽培期の温度が上昇傾向にあり、従来よりも熟度
が高まっています。フランスのボルドー赤ワインはかつて12%程
のアルコール度数でした。それが今では14%超の赤ワインもある
ほどです。
その様な高アルコール度数のワインは含有するエキス分も同様に
高く、豊富で、色も味わいも濃厚です。渋味の強いフルボディー
です。渋いけれど甘い赤ワインと思われる可能性のあるワインと
言えます。お客様のリクエストに応えていない訳です。
しかし、ワインの多様性は無限です。濃くなくて、渋味が重厚に
広がり、甘く感じない赤ワインはあります。その代表的なワイン
はNebbiolo/ネッビオーロと言うブドウで造られます。ただその
ワインの多くは高額な所が問題です。
今日はネッビオーロの赤ワインよりもお手頃で、ネッビオーロの
赤ワインに類似する赤ワインを紹介します。そのワインは方言で
たくさんの種を意味するGrignole/グリニョーレに因み、名付け
られたブドウ、Grignolino/グリニョリーノで造られます。果実
の種には渋味成分が多く含まれています。
この赤ワインの大きな特徴は、色が薄いのに重厚で力強い渋味が
ある事です。赤ワインのあの赤い色が渋味成分ですから、薄い色
で渋味が強いと言う事はあり得ません。しかし、ネッビオーロの
赤ワイン同様、グリニョリーノの赤ワインはドライな鉄分ぽさが
あるパワフルなタンニン(渋味)があるのです。極めて例外的で
ユニークなワインなのです。
これなら「甘くない赤ワイン」、そして「渋い赤ワイン(ここで
意味するのは重厚な)」と言うリクエストを見事にクリアします。
この種の赤ワインは鉄分ぽさある食材を使う料理と相性がとても
良く、牛肉、鴨肉、鹿肉、マグロの赤身、カツオ、ブリ、鰻など
の料理(但し、濃厚なソースやタレで食さない時)と共に味わい
尽くせます。
濃くないから、甘く感じない。でも、シッカリ渋い。こんな個性
豊かな赤ワインを是非、味わってみて下さい。あなたを赤ワイン
の未体験ゾーンへ必ず連れて行くでしょう。
*Bricco del Bosco 2018 Grignolino Manferrato Casalese
ブリッコ・デル・ボスコ2018
グリニョリーノ・モンフェッラート・カサレーゼ
飲み頃温度:19度。
<静かに湧き上がるパワフルさのあるフルボディー>
3,000円
北部イタリア、Valtellina/ヴァルテッリーナの特産品、牛肉の生ハム
(Bresaola/ブレサオーラ)です。ビーフ・ジャーキーがジューシー
になった様な味わいと言えば、ブレサオーラを想像し易いでしょうか。
ブレサオーラはネッビオーロの赤ワインと好相性ですので当然ですが
グリニョリーノの赤ワインとも素晴らしいマリアージュを奏でます。
ブリの照り焼きをこのグリニョリーノの赤ワインに合わせるのなら、
画像の照り焼きほど濃厚な照りがない方がベターです。