一昔前に比べ、鍋料理のヴァリエーションの豊かさは比べものに
ならないほどです。そのヴァリエーションがワインとのマリアージュ
の可能性を大きく広げます。
ワインには色で分けると白ワイン、ロゼワイン、赤ワインがあり、
それぞれに様々な酒質のワインがあります。そのタイプの違いを
巧みに活用し、料理に合わせ、そこで生まれる相性の良い調和、
マリアージュを楽しめるのです。
そのマリアージュの決め手は、スープの味付けとメインの食材
の味わい。そして具材をどんなつけタレで食すのかになります。
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甲殻類や貝類をふんだんに入れた海鮮鍋を塩だし仕立てで
食すとしましょう。甲殻類や貝類には苦味ある旨味があり、食材
から出るミネラル成分のコクもあります。この鍋のポイントは塩、
ミネラル、苦味ある旨味です。ワインと料理を合わせる時には、
お互いに同系の香りや味わいを持っているとその同化に違和感
を感じません。
塩だし仕立ての海鮮鍋には軽快な酒質のワインよりもコクのある
ワインが合う事になります。コクのあるワインと言っても大別する
と2系統あり、ブドウ由来の成分とアルコール分が相乗し創るコク
そして、木樽熟成する事で得たコクです。この鍋の場合は木系の
要素を感じる風味がありませんから、木樽熟成をしないでもコク
があるワインが選択肢としてはベストです。
また、木樽熟成をすると、熟成の際中にある変化によって酒質
にコクが備わる代わりに柔和さも備わります。それはミネラルの
感覚が控えめになる事になり、ここからも食材から来るミネラル
成分との調和が弱まります。
では、何色のワインが良いのでしょうか。合わせる時の基本は
料理の見た目の色調と同系の色のワインを合わせる。塩味
のスープですので、同系の色のワインは白。よってこの鍋には
木樽熟成していない、コクのある白ワインがピッタリです。
それではこちらの鶏の塩だし仕立ての鍋ならばどんなワイン
が良いでしょうか。塩味ですから白ワイン。ここまではOKです。
しかし、甲殻類や貝類の苦味あるコクやミネラル成分はこの鍋
には感じません。ですので、どの様に食べるかで一緒に合わせ
楽しむワインのタイプが決まります。
食材の持つ自然の旨味と塩だしが醸し出す味わいだけでこの
料理を食すのなら、コクのあるワインやミネラルを感じる爽快
な酒質のワインでなくてもOKです。しかし、ポン酢をつけて食す
ならば、柑橘果汁のリンゴ酸、ミネラル感が料理に加わります。
その時にはワインにも柑橘果実の要素を感じるタイプがベター
になります。
鶏の塩だし仕立ての鍋をポン酢をつけずに食べるのなら、鶏
の旨味を引き立てる為、軽く、まろやかな白ワインが、ポン酢
をつけて食べるのなら、軽く、爽やかな白ワインが選択肢と
して最適です。
今度はしゃぶしゃぶです。牛肉、豚肉、鶏肉、寒ブリ等、食材は
様々です。しゃぶしゃぶにワインを合わせるポイントは具材を何
につけて食べるのかです。ポン酢なのか、ごまタレなのか。
ポン酢ならば先程の要領で合わせ楽しめばOKです。問題はごま
タレで食す時です。ごまは煎ってからすりつぶしてありますから、
タレは香ばしく、ごま油が採れる程ですから口当たりは オイリー
です。
ロースト香があり、オイリーな酒質のワイン。これは木樽熟成を
経たワインでないとあり得ません。樽を作る時に火で熱を加え
木を湾曲させます。樽の内側のローストした部分からワインに
成分が移行します。その為、ワインにロースト香が付きます。
また、木には油脂分があり、同様にワインに移行します。また、
熟成の段階でワインの酸味が乳酸に変化し、乳系の香味が
ワインに備わります。この為、ごまタレの香味と同じ様な香味
をワインが備える為、両者のハーモニーの良さが生まれる訳
です。
しゃぶしゃぶをポン酢で食すのなら、軽く、爽やかな白ワイン
が、ごまタレで食すのならコクのある白ワインがお勧めです。
赤ワインを飲みながら鍋を囲みたいよ。ダメなの?いいえ、
OKです。次は赤ワインで楽しむ鍋料理を紹介します。
ここ数年、人気急上昇のトマト鍋。トマトの酸味が効いた
独特の味わいで、比較的サッパリ。このトマト鍋にワインを
合わせるポイントがそこ。酸味とサッパリ感。
見た目の法則を使えば、この鍋料理には白ワインでなくて
赤ワインが良さそうです。そして、メインの食材ではないかも
しれませんが、この料理の味わいの主体はトマト。トマトも
赤。色の法則で赤い物には赤ワインがやはり合います。
では、どんな赤ワインが良いのでしょうか。赤ワインを語る
時には渋味を問題にします。渋味成分が多いのか少ない
のかを。渋味成分が多いと重厚で芳醇。サッパリと言った
感覚ではありません。しかし、渋味成分が少ないとサッパリ
と言った表現が当てはまります。それは何故か。
渋味成分が多いとワインの色合いは濃くなります。当然、
凝縮した酒質となり、酸味はその中に隠れます。その一方
で渋味成分が少ないとワインの色は薄くなり、赤ワインの
色が渋味成分ですから、相対的に酸味の主張が明確に
なります。それがサッパリ感になる訳なのです。
酸味の効いた料理には酸味の広がる味わいを持つワイン
を。トマト鍋には酸味の広がりある渋味の少ない(ライト
ボディー)の赤ワインがピッタリです。また、ロゼワインも
トマト鍋の相棒としてお勧めです。
こちらも人気ランキング上位のカレー鍋。香辛料の風味
豊かで、身体に刺激を与えてくれる1品です。カレー鍋の
場合、見た目の法則で行くと画像の様な感じの場合、赤
よりは白と言いたい人もいるでしょうが、ポイントはその
存在感ある香辛料の豊かな風味。
ホワイトペッパーの香りを感じる白ワインはありますが、
香辛料の多くは赤ワインに感じます。ブラックペッパー、
シナモン、丁子、ナツメグ、タイム、ローズマリー、甘草
など。カレーを作る際にもこの様な香辛料をふんだんに
使ってありますから、スパイシーな香りを持つワインとの
相性に優れている事になります。
カレーに感じる様なスパイシーさを持つワインにはどんな
ものがあるのでしょうか。代表的なものはSyrah/シラー
と言う品種から造られた赤ワイン、そして、Sangiovese/
サンジョヴェーゼから造られた赤ワインです。前者は
ブラックペッパーの香りを感じ、後者にはシナモンの
香りを感じます。
鍋でなくて、カレーだけでしたら渋味が多い、芳醇な酒質
のワインでもOKですが、鍋ではカレー風味のスープです
ので重厚過ぎない酒質のワインの方が、マリアージュの
完成度が高くなります。
カレー鍋と一緒にワインを楽しむのなら、渋味が中庸
ミディアムボディーのシラーかサンジョヴェーゼの赤
ワインがお勧めです。
トリはフルボディーの赤ワインにピッタリの1品、
キムチ鍋です。香辛料が赤ワインに合う事はカレー
鍋で判りました。何故、こちらはミディアムボディー
でなく、フルボディーの赤でもOKなのでしょうか。
それには2つの理由があります。1つはにんにくの
存在。もうひとつはキムチの乳酸の存在です。
にんにくは色は白ですが、その風味の豊かさは他の
食材の追随を許しません。にんにくの風味がプラス
される事でその料理の味わいは数倍深まります。
そこに乳酸のアクセントが備わるのがキムチ。
ワインの原料はブドウ、果実です。果実には酸味
(リンゴ酸)が多く含まれています。ですから、果実
から造られたワインにはリンゴ酸が豊かに含まれ
それが、爽やかさをもたらします。
木樽熟成したコクのある白ワインの所で簡単に触れ
ましたが、木樽の中で熟成している際、ある一定の
条件が揃うと、ワインに含まれているブドウ由来の
リンゴ酸が乳酸菌の働きで乳酸に変化します。
この変化により、ワインは複雑さを増し、味わいに
深みが出て、更には酒質が安定します。赤ワイン
の場合、この過程(マロラクティック発酵、MLF)を
ほとんどのワインが経て、造り上げられています。
フルボディーの赤ワインの場合、芳醇さはブドウ
由来の渋味成分からもたらされると同時に、この
MLFによって得た乳酸のドッシリとした旨味から
も、もたらされています。
この為、香辛料とにんにくの風味が豊かで乳酸の
旨味たっぷりのキムチに、重厚な渋味(タンニン)
があり、乳酸の旨味が広がる芳醇なフルボディー
の赤ワインが融合し、お互いの旨味を同化させ、
相性の良さを生み出すのです。
そして野菜を意識して、より一層、キムチ鍋を
ワインに近づけるのでしたら、緑黄色野菜や
ハーブを感じるワインを一緒に味わって下さい。
代表的なのは緑黄色野菜を思わせる香りがある
Cabernet Sauvignon/カベルネ・ソーヴィニョン
の赤ワイン、地中海沿岸に多いハーブ・スパイス
を感じる香りのあるGrenache/グルナッシュを
主体に造られた赤ワイン。
これらから造られたワインでしたら、他の品種から
造られたフルボディーの赤ワインよりもパーフェクト
な調和を見せてくれるに違いありません。
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寒さ真っ只中の今、熱々の鍋を囲んでワインを。
ワインの多様性はヴァラエティー豊かな鍋料理
と様々なマリアージュを奏でます。
何鍋にするか、先ずは決めて下さい。それに
ピッタリのワインをお選び致します。