秋らしかったり、初冬の気配だったり、未だに夏日があったり、
それでも葉が色付き始め、また、秋を色濃く感じさせるあの花
の香りが漂っていたりと季節感の定まらない日々が繰り返し、
日本の美しい四季は何処へ行ってしまったのでしょうか。
でも、今、秋真っ盛りなのは間違いありません。だってあの花、
あの花です。場所によってはもう終わってしまっている様です
が、窓を開ければ、外に出れば、空気中に漂っている華やかで
妖艶な香りを感じます。
そう、その香りの正体は金木犀の花。一度、嗅いだら、決して
記憶から脱落しないまでの個性的な香り。この香りを感じると、
ワイン好きの人なら共感してくれると思いますが、あのワイン
を思い浮かべ、そのワインを飲みたくなります。
それは白ワイン。「Gewurztraminer/ゲヴュルツトラミネル」と
言うブドウで造られたワインです。何も知らずにそのワインの
香りを吸い込んだなら桂花陳酒やキンモクセイのリキュールを
思い浮かべる事でしょう。
ご存じの様にワインはブドウから造られ、副原料を加える事は
ありません。しかし、ゲヴュルツトラミネルのワインは一般的
なワインの常識を遥かに超えたフレーヴァーを備え、多くの方
にとって未体験ゾーンにあるワインと言えるでしょう。
金木犀を思わせる香りがあるのは既にお察しでしょうが、他に
ライチを思わせる香り、白や黄色のバラを思わせる香り、黄色
やオレンジ色の果実のコンポートを思わせる香り、更には全く
別のフレーヴァー、ホワイト・ペッパーを思わせる要素も兼ね
備えています。
その様に個性的な為、一緒に楽しめる料理、食べ物は限定され、
いつでも、どこでもと言う訳には行かないのですが、その個性
を理解し、相応しい楽しみ方をしてあげるなら、これ程までに
印象的なワインはないと言えます。
ゲヴュルツトラミネルのワインには辛口も、やや辛口も、やや
甘口も、甘口もあるのですが、フレーヴァーの個性は不偏で、
何れにも明確に備わっています。
味わいが辛口であれば、ユズ塩で味わいを整えた料理、柑橘類
の風味が豊かなポン酢で食す料理、トロピカルフルーツ、特に
パインを使った料理などと一緒に楽しむ事ができます。
また甘口であれば、パインの入った酢豚、そして生ハム(これ
は時にパーフェクトなマリアージュを奏でます。)などと一緒
に楽しむ事ができます。
そしてこの様なフレーヴァーに満ちたワインはしばしばアジア
に多く存在するスパイシーな料理と合わせ楽しまれます。所が
そのペアリングは常に必ずしも良とはならず、マリアージュを
創り上げる事に少々、骨が折れます。
エキゾチックなスパイシーさある料理にゲヴュルツトラミネル
のワインを合わせる時、果実味の凝縮が強すぎず、そこからの
甘味が控えめな方が選択肢としてベターです。
最新ヴィンテージ2021のゲヴュルツトラミネルが当店へやって
来ました。
早速、テイスティングした所、ゲヴュルツトラミネルを明確に
認識できる香りはあり、味わいは果実味が凝縮し過ぎていない
為、味わいに甘味が強く現れず、余韻に香辛料(ゲヴュルツは
香辛料の意味)のヒントを感じ、その名の通りのフレーヴァー
になっています。
と思い、ガストの新メニュー「牡蠣のピリ辛あんかけ焼きそば」
に合わせてみました。
ゲヴュルツトラミネルの白ワインとスパイシー・フードが合う
とは真にこれですとお手本の様なパーフェクト・マリアージュ
を見せてくれました。
あんの甘いニュアンスの香り、酸味を感じる味わい、粘性ある
口当たりがゲヴュルツトラミネルのワインならではのリッチさ
と相乗します。
牡蠣は生で食す、加熱して食すに関係なく、フルーティーさが
マリアージュを邪魔するのですが、今日紹介のワインは果実味
が凝縮し過ぎていない為、生臭さを強調させません。
キノコも同様で、強すぎる果実味はキノコの旨味を旨味と感じ
させず、それをえぐみ、嫌みに変えてしまいますので、果実味
が控えめな今日紹介のゲヴュルツトラミネルのワインは相棒に
相応しいワインと言えます。
あんとの相性、具材との相性に優れ、両者にあるスパイシーな
フレーヴァーの調和もある。ですからマリアージュを奏でない
筈がないと。ペアリングしてみれば、その結果は言わずもがな
です。