為の酵母を加える以外は基本的に何も加えませんから、原料と
してのブドウの良し悪し、性質、性格がそのままストレートに
ワインに移行していると言えるでしょう。アルコール飲料の中
で最も農作物である事を意識させるのがワインと言えると思い
ます。
農作物(ブドウ)の延長がワインですから、質よりも量、安定
供給を主眼とする大規模生産者の工業製品の様なワインよりも、
細部にまで気を配りつつブドウ栽培とワイン造りを行っている
小規模生産者の方が質の追求ができ、より農作物を感じられる
ナチュラルなワインが誕生すると言えるのではないでしょうか。
その事はかつて日本のマーケットでブドウ栽培からワイン造り
販売まで一環して行うDomaine/ドメーヌ(フランスのワイン
生産者の一つの形態で、特にブルゴーニュ地方で商いを行って
いる比較的規模の小さい生産者の事をそう呼びます。)ものの
ワインでないのならそれはワインではないとさえ言われていた
時があったのも、ワイン=農作物を強く意識していたからに他
なりません。
また、ワインには醸造家(ワイン・メーカー)の人柄が明確に
反映されているとも言われ、穏やかな心をした醸造家のワイン
に和みがあり、ヴィヴィッドな性格の醸造家のワインには活力
が溢れ、何事も愛でる醸造家のワインには一点の曇りもない美
が備わっていると感じています。
それは醸造家の目が、思いが、魂の全てがワインへと注がれて
いた結果だと思います。ですから細部にまで気を配る事が困難
な大量生産システムから誕生したワインがとても良く出来ては
いても何か物足りなさを感じる時があるのは、造り手のハート
をワインに感じられない事に最大の要因があると考えられます。
そんな事もかつてブルゴーニュワインならドメーヌものだよね
と日本のマーケットで語られた背景にあったと思います。
この地球上に例外のない世界が存在するでしょうか?皆無です。
これは疑い様のない事実でしょう。ワインの世界にだって例外
があります。
大規模生産者のワインには物足りなさがある。大抵の場合そう
なのですが、先日、訪問したルーマニア国内第2位の生産者の
Vincon/ヴィンコンのワインにはシッカリと醸造家のハートが
反映されていました。心を打つワインが造られている所には心
を打つホスピタリティーを持つ醸造家、スタッフが必ずいます。
食品や飲料などの工場見学に行った際に受ける様な通り一辺倒
の対応でなく、後に明確に記憶が蘇るまでの強い印象、感銘を
その場で与えてくれるもてなしがそこにあります。そんな彼ら
が生み出し育んだワインなのですから、それに感動を覚えない
筈がない、そうなる訳です。
ヴィンコンのワインは日本に来た事はまだありません。ワイン
の品質は既に日本に来ている他のルーマニアワインと全く遜色
ないばかりか、販売価格によっては大きな優位性があると思い
ます。近い将来、ヴィンコンが造る彼らのハートがギッシリと
詰まったワインを店で販売できる時が来れば良いな。と訪問後
から願い続けています。
こちらがヴィンコンが所有するワイナリーのひとつです。ここ
の設備、敷地だけを見ても大規模生産者のそれです。この日は
数日ぶりの晴天で真っ白の建物が陽光に照らされ非常に鮮やか
でした。
多くの商品を造り出しているヴィンコンではステンレスタンク、
樹脂タンク、木樽を造り上げたいワインの酒質に合わせて使い
分けています。
更に木樽は複数年使用している大樽、初めて使う小樽、1年使用の
小樽、複数年使用の小樽を同様に使い分けてワイン造りを行って
います。
上の画像は赤ワインの熟成庫です。右下から中央に向け並ぶ5つ
の樽は新樽で、ルーマニアのオリジナル品種Feteasca Neagra/
フェテアスカ・ネアグラで造った赤ワインが入っています。他の
樽にもフェテアスカ・ネアグラで造った赤ワインが入っています
が、新樽に入った赤ワインの方が格上のワインだそうです。
上の画像はMuscat Ottonel/ミュスカ・オトネルと言う東欧で
よりポピュラーなブドウ品種で造ったエレガントな酒質のやや
甘口の白ワインが入っている大樽です。
これらの大樽は50年程の長きに渡り使い続けられていて、樽の
要素をワインに移す事なく時間をかけワインを洗練させるのに
ベストだと言います。
その大樽から直接ワインを汲み出し、テイスティングをしたの
ですが、クリーンで美しい、妖艶とさえ言える香味を湛えた様
は筆舌に尽くし難いものがありました。
こちらは破砕を待っていたMerlot/メルロです。太陽光による
ダメージを受けない様、日陰で待機していました。破砕前の
ブドウはダメージを受けない様、低温下で清潔に保つ必要が
ありますので、十分な注意を払っている事が判ります。
実際に見聞し、初めて知り得る真実。ヴィンコンにはそれが
明らかにありました。